2013/03/05 00:00

LIVE REPORT : One Night Re:Birth

2013年2月24日に東京の日本橋三井ホールにて、『ロマサガ』の作曲家として知られる伊藤賢治氏(元スクウェア、現在はフリーとして活動)を始めとするミュージシャンが出演するライヴ・イベント「One Night ReBirth」が開催された。そこでは大人気ゲームである「ロマサガ」シリーズのバトル・ミュージックを中心に、数多くの名曲が披露された。1000人を越す観客に埋め尽くされた、当日の模様をライヴ・レポートで振り返る。


「One Night Re:Birth」
2013年2月24日(日)@東京日本橋三井ホール
OPEN / START : 15:30 / 16:30

【出演者】
伊藤賢治(キーボード) / 土屋玲子(バイオリン) / 寺前甲(ギター) / 上倉紀行(ギター&キーボード) / 榎本敦(ベース) / 山内優(ドラムス) / 和田貴史(マニピュレーター)

【スペシャル・ゲスト】
岸川恭子(ボイス・パフォーマー)

【SET LIST】
1. バトル1メドレー(Romancing Sa・Ga 1.2.3 Romancing Sa・Ga -Minstrel Song-) 「Re:BirthII」
2. 四魔貴族バトルメドレー(Romancing Sa・Ga 3) 「Re:BirthII」
3. 玄城バトル(Romancing Sa・Ga 3) 「Re:BirthII」
4. 術戦車バトル(Romancing Sa・Ga 3)「Re:BirthII」
5. Believing My Justice(Romancing Sa・Ga -Minstrel Song-)「Re:BirthII」
6. マナの嬰児(聖剣伝説DS CHILDREN of MANA) 「Re:Birth」
7. Battle #5(SaGa Frontier) 新規アレンジ
8. ポドールイ(Romancing Sa・Ga 3) 新規アレンジ
9. ALONE(SaGa Frontier) 新規アレンジ
10. 戦闘2-勇気と誇りを胸に-(新約 聖剣伝説) 「Re:Birth」
11. 七英雄バトル(Romancing Sa・Ga 2) 「Re:BirthII」より新規アレンジ
12. ラストバトル(Romancing Sa・Ga 2) 「Re:BirthII」
13. ラストバトル(Romancing Sa・Ga 3) 「Re:BirthII」
14. 決戦! サルーイン(Romancing Sa・Ga -Minstrel Song-) 「Re:BirthII」
アンコール
15. バトル2(Romancing Sa・Ga 3) 「Re:BirthII」
16. 邪聖の旋律(Romancing Sa・Ga -Minstrel Song-) 新規アレンジ
17. 愚者の舞(聖剣伝説4) 「Re:Birth」
18. 熱情の律動(Romancing Sa・Ga -Minstrel Song-) 新規アレンジ

懐かしのあの思い出が蘇る一夜

「ロマンシング サ・ガ」(いか、ロマサガ)シリーズなどのRPGのゲーム音楽で知られる伊藤賢治ことイトケン。そのイトケンが2012年8月発売の「ロマサガ」シリーズのバトル・シーンの楽曲をリアレンジしてアルバム『Re:BirthⅡ Romancing Sa-Ga BATTLE ARRANGE』を中心としたライヴ「One Night Re:Birth」を2013年2月24日 に行った。場所はキャパシティ1000名ほどの日本橋三井ホール。チケットはすべてオール・スタンディングと最初から攻める気が伝わってくるセッティングだが、前売りで完売していた。

当日の会場の外には期待で胸をふくらませた人々が列を作り、そんな中を進んで会場に入ると、早速目に入るものがあった。それは「ロマサガ」を通してキャラクター・デザインを手がけた小林智美の原画。曲を聞く前からゲームをプレイした体験が蘇り、気分が高まってくる。そして、そんなうずうずした気持ちで開演を待っているとまたしてもうれしいサプライズが。マナーを伝える場内アナウンスを声優の杉田智和※1がしていたのだ。彼の「ロマサガ」ネタを混じえたナレーションで場内はなごみ、程よい感じに温まった雰囲気になったところでイトケンが登場。最初からテンションをフルスロットルに入れて1曲目「バトル1メドレー」、2曲目「四魔貴族メドレー」とメタル色の強い激しい曲で畳み掛ける。イトケン本人もキーボードを弾きつつ観客を煽る。イトケンの楽曲はインストでありながら情感豊かなメロディの存在感の大きさが特徴だが、ライヴではリズム隊が堅実にリズムをキープし、そのことによってキーボードとギターが自由に弾けるからこそメロディがより際立つことがわかる。要は生バンドすごい! 興奮する! ということで冒頭から引き込まれた。

演奏が終わるとMCが入った。イトケンと上倉紀行(Gt、Kb)が掛け合い漫才のようなトークをして場内はなごやかな雰囲気に。ここでバンド・メンバーを説明しておくと 上倉紀行は「朧村正」や「零の軌跡 evolution 」などを手がけるゲーム音楽の作曲家。そして、彼はファルコムjdkバンド※2にも参加していて、寺前甲(Gt)、榎本敦(b)、山内優(ds)という他のメンバーも同バンドに参加している。和田貴文(manipulator)※3もゲームやテレビ番組の分野の作曲で活躍している。いずれもゲーム音楽の分野の精鋭が揃ったバンドなのだ。

続いてグルーヴィーなリフが印象的なフュージョン調の3曲目「玄城バトル」、フュージョンとメタルがほどよくブレンドされた4曲目「術戦車バトル」から、また「ロマサガ」らしいメタル調のバトル曲5曲目「Believimg My Justice」が炸裂。イトケンも途中でショルダー・キーボードに持ち替え、さらに会場を盛り上げていく。そして、ここでMCが入り、イトケンと上倉紀行がお互いの「ロマンシング サ・ガ」プレイ体験を語り合う。小学生の時にシリーズ初作の「ロマンシング サ・ガ」をプレイした上倉紀行は、難易度の高い主人公キャラを最初に選択してしまうなどしてクリアまでに四苦八苦したそう。「アルベルトだとすぐ敵に囲まれてきつい」などの「ロマサガ」によくある体験の話で会場が笑いに包まれる。そして、これまでは『Re:BirthⅡ』からの曲だったが、6曲目は前作の『Re:Birth/聖剣伝説』から「マナの嬰児 」を演奏、さらに音源化していない新規リアレンジの7曲目「Battle #5」と続く。ネオクラシカルメタルやシンフォニック・メタルなどを思わせるアレンジの2曲に会場の熱気も高まる。

ここまでなにやら興奮しっぱなしだが、曲が終わってのMCに別の角度で興奮せざるを得ないサプライズ・ゲストが登場。「ロマサガ」シリーズのディレクターやプロデューサーなどを務めた河津秋敏が壇上に現れたのだ。飄々とした佇まいでイトケンと「ロマサガ」制作についての話を語り始める。河津の「イトケンは入社した頃から変わってないね」という話から始まり、『サガ フロンティア』で7体いるラストボスにイトケンがそれぞれ個別の曲を作り、過労で1週間寝込んでいたが、河津に「よくがんばった」と言われてうれしかった、というエピソードなど次から次へと興味深い話が出てくる。音楽の話としては、河津はスクウェアのゲーム音楽には植松伸夫が自由に曲を作っていたからイトケンにも自由にやってもらっていたと語り、イトケンもやはりスクウェアのゲーム音楽には植松イズムのようなものがあり、フリーとして活動している今でも90年代のスクウェアのような感じがいいとオーダーされることがあるという話が特に印象に残った。最後に中継していたニコニコ動画から質問を募り、「ロマサガ」の3に続く4はあるのかという質問になったが、河津は今のところ予定はないと回答。だが、同時にものを作ることに年齢は関係ないと期待できるような言葉も残していた。

余韻も冷めやらないまま、次の8曲目からはまたしてもゲストで土屋玲子(ヴァイオリン)が登場。新規リアレンジの「ポドールイ」と9曲目「ALONE」とアコースティックで落ち着いた曲を演奏。静かな中にロマンチックなメロディが響く。10曲目「戦闘2-勇気と誇りを胸に-」ではまたアップ・テンポになるが、ヴァイオリンで弾かれるラテン調の主旋律がメロディ・ラインの力強さの裏にある哀感を引き立てる。イトケン楽曲の幅の広さが体感できる演奏だった。そして、11曲目には人気の高い「七英雄バトル」が『Re:BirthⅡ』の枯れた雰囲気のジャズ調の編曲とは異なるメタル・アレンジでやることをイトケンが宣言し、演奏開始。歓声が上がり、観客はまたもや興奮状態に突入。しかも、演奏後には『Re:BirthⅡ』の続編制作が決定し、「七英雄バトル」がこのアレンジで収録されるというインフォメーションが入り、さらにうれしい悲鳴が… ! 会場とニコニコ動画の視聴者から続編はどのタイトルがいいかというアンケートが実施される。結果は「ロマサガ」と言えばひらめきということで『Re:Birth II 閃 』が8割以上の支持を得ていた。収録曲の希望もとられ、ライヴのMCでしばしばネタとして使われていた名曲「下水道」の声もあがる。なにが収録されるか今から期待して待とう。

そこから最後は、12曲目「ラストバトル(Romancing Sa・Ga 2)」、13曲目「ラストバトル(Romancing Sa・Ga 3)」、14曲目「決戦!サルーイン」とラストボス・バトル曲3連続が続き、イトケン・メタルがこれでもかとうなりを上げる。加速度的に盛り上がって本編が終了。もちろん、拍手が鳴り止まない中、アンコールのために再登場する。「バトル2」と新規リアレンジの「邪聖の旋律」を演奏して、観客の期待に120%応えつつまた盛り上げていく。続いて、3人目のゲストとしてボイスパフォーマーの岸川恭子が登場。「愚者の舞」「熱情の旋律」といったラテン調の曲で凄みのみなぎる歌を聞かせ、熱量の高いバンドの演奏をさらに熱いものへと昇華させていく。圧巻のライヴでバンドも観客も色々なものを出し切ったような笑顔で「One Night Re:Birth」は幕を閉じた。

終わってみて思ったことは、ライヴとしてももちろんすばらしかったのだが、「One Night Re:Birth」がそれ以上に「ロマサガ」というゲーム体験を音楽によって蘇らせ、更新し、みんなで継承していく場として機能していたということだ。小林智美の原画の展示や河津秋敏の出演はそういうことも含めたものだったと思う。10代の頃にプレイしていた「ロマサガ」という物語が30代の今でもこうして形を変えて続いていることは、とても貴重で幸福なことだ。(text by 滝沢 時朗)

左から渋谷 員子、小林 智美、伊藤 賢治、河津 秋敏、市川 雅統

※1 : 杉田智和:代表的な役は「涼宮ハルヒの憂鬱」のキョン、「銀魂」の坂田銀時など。イトケンファンを公言しており、ラジオ番組にゲストとして呼んだこともある。
※2 : ファルコムjdkバンド:「イース」シリーズや「空の軌跡」シリーズで有名な日本の老舗RPGメーカー、ファルコム。そのファルコムのゲームの楽曲をバンドでアレンジし、ライヴを行うのが ファルコムjdkバンドである。
※3 : マニピュレーター : 電子音楽においてはシンセサイザーやシーケンサーのプラグラムをする専門家のこと。ライヴでは他の楽器以外の音を出していると捉えるとわかりやすい。

LINK

Re:Birth 公式サイト

Re:Birth II 公式サイト

エンペラーズサガ 公式サイト

One Night Re:Birth HP

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