2017/03/29 18:41

茨城・水戸の路上から歌を通じて全国へ──磯山純、初のフル・アルバムをハイレゾ・リリース

「Love yourself」をテーマに歌い続けるシンガーソングライター磯山純。地元である茨城県水戸市を拠点に活動し、茨城でのワンマンライヴは1,500人規模をソールドアウト。そして彼が主催した野外フェスには2万人を動員。そんな磯山純の1stフル・アルバムがハイレゾで登場。一青窈などを手掛け、その名を轟かすマシコタツロウ氏をプロデューサーに迎えた今作『Love yourself 〜花々しく〜』。喜怒哀楽、様々な感情が散りばめられたアルバムになっている。ギター1本で地元茨城、そして全国に歌を届ける彼にインタヴューを行った。

水戸出身のシンガーソングライターの1stアルバム

磯山純 / Love yourself ~花々しく~

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?

【配信価格】
単曲 324円(税込) / アルバム 2,592円(税込)

【収録曲】
1. ファントムバイブレーション
2. 東京
3. 花々しく
4. 片想い
5. 冬のアルストロメリア
6. 君は泥舟
7. Buy and Sell ~未来へのステップ~
8. ロードバイクのフィアンセ
9. 花がらを摘むように
10. ユウゲショウ
11. グッバイ

INTERVIEW :

「茨城県水戸市」と耳にしたらどんなイメージを持つだろうか。納豆、水戸黄門……う~ん、正直それくらいしか浮かんでこなかった。住んでいる人たち、ごめんなさい。でも、こと音楽の世界では、そんな茨城県水戸市を拠点に活動しているシンガーソングライター、磯山純の名が今後、全国的に広がっていくかもしれない。耳馴染みの良い歌声と王道のJ-POPをベースにしたキャッチーな楽曲を武器に、水戸茨城県立県民文化センター大ホールでのワンマン・ライヴにソールドアウトとなる1,500人を集め、2016年5月に開催した〈Ibaraki SogobussanOngakuFestival 2016-茨城県総合物産音楽フェスティバル-〉では2万人を動員。2017年1月には再びホールでのワンマンを成功させている。地元・茨城県水戸市、千波湖のほとりでギターを練習していたという少年は、いかにしてその場所に2万人を集めるようになったのか? 音楽を通して地元を盛り上げたいという思いについてじっくり語ってもらった。

インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 酒井麻衣

茨城、そして水戸という街のために

磯山純

──磯山さんは、活動当初からずっと茨城県水戸市を拠点にしているんですか?

もともと東京で月に1、2回ライヴ活動をしていたんですけど、震災を機に茨城でも活動するようになったんです。震災で茨城の街がぐちゃぐちゃになっちゃって崩れた家や亡くなった人もいて。僕が中高生の頃って、水戸の街は週末にお出かけする街だったんですけど、震災後は全然人が歩いていない街になっちゃったんです。もう1度それを昔みたいに戻せたら良いなという思いで2012年から本格的に音楽活動を始めて、茨城でも頻繁にライヴをやりだしたんです。

──地元で開催したフェス〈Ibaraki.Sogobussan.Ongaku.Festival 2016〉で2万人を動員したそうですけど、これはどんなイベントなんでしょうか。

地元に千波湖という湖があるんですけど、高校生の頃にそこでギターを弾いたり歌ったりしていたんです。その頃に「いつかここで大きなイベントができたらいいな」って淡く思っていて。震災が起こってからその思いが甦ってきて、千波湖で野外イベントを開催することを目標にして活動を始めたんです。茨城県って納豆が有名ですけど、北海道についで農業生産高の多い県なので美味しいものを作っている方や個人でがんばっている方がたくさんいるので、ただ音楽をやるだけじゃなくて、そういう方が一同に会するような、茨城の総合物産展と音楽をコラボした日を作れば交流人口も増えるし、水戸の街にも活気が戻るかなと思ったんですよね。

──音楽だけではないとはいえ、それだけの人を集めるって驚異的ですよね。フェスを開催できるようになるまでどんな活動をしてきたんですか?

千波湖でフェスをやろうという目標を掲げる前は、東京のライヴハウスでワンマンをやってもお客さんが7人とかで(笑)。正直東京で活動していた頃は、具体的なコンセプトは何もなくて、ただ曲を作って歌うみたいな感じでやってたんです。それを改めて千波湖で野外イベントを開催する目標を掲げて音楽活動を本格的に始めたんですけど、自分に集客力がなかったら他のアーティストに声をかけるのも失礼だなと思ったんです。

それで1万人規模のフェスをやる前に段階を踏んで行こうと思って、1500人入る茨城県民文化センターの大ホールでライヴを成功させようと思ったんです。まず2012年の9月に460人キャパの小ホールでライヴやるために、その年の5月から本格的にライヴ活動を始めました。その頃は東京で塾講師のバイトをして終わったら車を運転して水戸に行ってストリートライヴとかイベントに出て、また東京に戻って塾の講習会の準備をしたりするっていう生活をしていました(笑)。

──すごいバイタリティですね。もともと1人で音楽活動をはじめたんですか。

もともとは、高校1年のときに同級生と2人組でストリートライヴをやったのがはじまりなんです。僕はライヴハウスに行ったこともなかったので、街中に歩いている人に聴いてほしいという思いもあって。それと、大学でマーケティングのゼミに入っていたんですけど、その頃に都内で街頭アンケートを取ったことがあって、「年に1回、街のライヴハウスに行きますか?」っていうアンケートで、1%しかいなかったんですよ。だったらその1%の人に向けて歌うより99%の人に向けて歌いたいなと思ったんです。普通に暮らしている人に音楽を届けられたらいいなって。

高校生の頃も街中で下を向いて歩いている人がいたら、元気になってくれたらいいなという思いで歌っていたりしたので、もう1度原点回帰で水戸の街でストリートライヴをやろうというところから1人でやりだしたんです。

──でも、ストリートで歌いながらホールでライヴできるくらい集客を増やすのって至難の業じゃないですか?

僕は、「週5勤務」だと思ってるんですよ。普通のサラリーマンの方って週5で働くじゃないですか? 僕もどんな形であれ、週5回歌おうと思ってたんです。イベントでもライヴハウスでもストリートでも、とにかくどこでも歌おうって。それを繰り返していったのと、僕の夢を共有してくれる方が多かったというのもあったと思うんです。僕は街のためにという思いがあって『CD1000枚売るまで帰りま1000ひとりで茨城広めてきまツアー』っていうのをやっていたんです。水戸市役所とか県庁に行って観光パンフレットを段ボールいっぱいにもらってきてCDと一緒に車に積んで全国を回って、CDと一緒に観光パンフレットを配ってたりして。茨城ってすごくいいところもたくさんあるんですけど、あんまり知られてない部分があるので、興味を持ってくれたらなと思ってたんですよ。

磯山純というものを商品として俯瞰で見ている

──地元を愛しているアーティストの方ってたくさんいるとは思うんですけど、観光パンフレットを配るとか、そこまでのことをしている方ってたぶんいないですよね。

そうかもしれないですね。僕はコンセプトとかを考える頭になっているというのはあると思います。磯山純というものを俯瞰で見て商品として捉えた場合、「この音楽を聴いたらどういう気分になるんだろう」とか「どういう思いになれるんだろう」っていうことが、普通にただ音楽をやっているだけだと伝わらないと思うので、それを明確化したいなと思っているんですよね。

──誰に言われるわけでもなく、アーティストとしての自分を客観的に見るのって難しくないですか?

客観的に見ようと思うようになったのはきっかけがあって、中学生のときに英語の発表会に出たことがあるんですけど、そのときに緊張でブルブル震えちゃったんですよ。それがすごくダサいなと思っちゃって。それまでカッコつけてスカして生きてきたのに(笑)。

──あはははは(笑)。

そのときに、小学生の頃にやってた「ファイナルファンタジー」とか「ドラゴンクエスト」とかRPGみたいにできないかなって思ったんです。小さい自分が上にいて、コントローラーを持って自分を操作できないかなって。そうすれば、その場に合うような自分にしてあげられるというか、自分のことだけど自分のことじゃないようにできるというか。そういうことを積み重ねていった結果そうなったんだと思います。

──音楽制作においてもそういうところが反映されている?

あると思います。実体験をそのまま思い切り書くということがあまりなくて、実際にあった出来事をモチーフに曲を書く感じとか。

──アルバム1曲目の「ファントムバイブレーション」は誰にでも経験のある“あるある”的な感じで聴きました。

高校生の頃に水戸駅から家に帰る途中で「ブルブル」って着信があった気がしたんですけど、着信がないことがよくあって。そのことを調べたら「ファントムバイブレーション・シンドローム」というらしいことを知ったんです。自分から連絡を取ったりしない“待ちな姿勢”だった自分がダサいなと思って、自分から動いて行かないといけないっていうことを歌にしたんです。曲の発想から完成までは15年くらいかかってます(笑)。

水戸の街、茨城の街が元気になってくれたら

──アルバムタイトルの『Love yourself 〜花々しく〜』についてですが、「Love yourself」という言葉はこれまでの作品でも使われていますよね。この言葉は磯山さんの活動のテーマということですか。

曲のコンセプトが全部「Love yourself」で、自分のことを好きになれるような曲を作っているつもりなんです。最初の頃、ライヴ活動をしていてもお客さんが増えなくて、どんどん自分の価値がないように思えてきて自分のことが嫌いになってきていたんです。そんなときに、とあるライヴハウスの店長さんが「純君はがんばってるよね」って言ってきて。そのときは、この人何言ってるんだろうって思ってたんですけど、その言葉が後からじわじわきて。「少しがんばってる部分もあるのかもしれない」って思ったんです。

自分のことを嫌いなときって人に対して優しくできないんですよ。優しくできないから優しくもされない、っていう悪循環が続いていたんですね。でも「がんばってるよね」って言われた言葉が自分の中で咀嚼できた頃に、人に優しくできるようになって、人からも優しくされる、幸せな循環になってきたんです。それから自分のことを好きになれるようにがんばっていかなくちゃいけないなと思って「Love yourself」をテーマに曲を作ってるんです。

──「花がらを摘むように」は誰かに語り掛けているようなメッセージ性のある曲ですね。

この曲は、川崎で起こった、いじめを受けて亡くなられた子の事件のことが僕の中で曲を作るきっかけとしてあったんです。つらいときって、「自分にはここしかない」と視野が狭くなってしまうと思うんです。例えば僕が東京で7人しかお客さんがいなかったときも、他のところで歌おうっていう考えにならなかったんです。「ああ、今日も駄目だ」って。でもいざ場所を移して茨城や関西、東北などで歌うようになって出会える人もいっぱいいて。ここだから駄目なだけであって、もしかしたら違うところにいけば花を咲かせられるかもしれないと、活動を通して思えるようになったんです。その子も、そこがすべてだっていう心境に陥っていたんじゃないかと思っていて。

でも冷静に考えると自分をいじめる人なんて人生にいらないですよね。その先に未来が待っていないであろう厳しさとか冷たくされることって、僕はいらないと思っていて。だったら逃げるべきだと思うし違う人を探すべきだと思うんです。そのときに、一瞬でも冷静になってくれたら嬉しいなと思って。僕もこの曲を歌うのは勇気がいったんですよ。「人を選びましょう、いらない人もいるよ」という歌なので。でも、辛かったときにもしこの曲が届いて「あ、家族や兄弟の方が大事じゃん」とか「今の学校の友だちだけじゃないな」とか、ふと冷静になってもらえたらと思ったんです。

──「冬のアルストロメリア」も花をモチーフにした曲なんですか?

アルストロメリアというのは花の名前です。フェスをやっていると個人では公園を借りられないから事務局を設けたり、正直乗り越えないといけないところがたくさんあって、上手くいかなくて自暴自棄みたいになっていた時期があったんです。その頃にアルストロメリアをベランダで育てていたんですけど、忙しくて家にいないことが多くて、水も肥料もあげない日が続いちゃって枯らしてしまって。でも、春になったら何もしていないのに勝手に芽が出てきたんです。それにすごく感動したんです。このアルストロメリアは、誰も見てないし誰から栄養を貰うわけでもないけど、「ここを耐えて一生懸命栄養を蓄えて、暖かくなったら花を咲かせるんだ。」って思っていたような気がして。

自分も腐ってちゃ駄目だと思ったんですよね。地震があって駄目になった街を元気にしたいって思ってたじゃん、って。自分が苦しいとか見てもらえないとか関係ないだろう、みたいな。駄目な日があっても、気持ちを入れ替えて日々頑張らなきゃいけないな、と思って作った曲ですね。

──OTOTOYからはハイレゾ配信となりますが、どんなところに注目して聴いてほしいですか。

やっぱり演奏は良く聴いてほしいですね。全曲、アレンジャーにしても演奏している楽器についても全部記載しているので。1つの楽曲を作り上げるためにミックスしている人、ベースを弾いている人、ドラムを叩いている人がいて。アルバムって僕1人で成り立っているものじゃなくて、1人ひとりの想いが詰まっているんですよ。そういったものを感じ取ってもらうためにも、高音質配信では今まで聴こえなかった音も聴き取りやすくなると思うので、そこに注目してもらえると、曲も深く聴けるようになるんじゃないかと思います。

──今年もフェスは開催するんでしょうか?

9月16日に開催予定で、少しずつ出演者の方も決まっています。少なからず自分のためにやっている部分もあるんですけど、自分のためにがんばるって限界があると思うので。水戸の街、茨城の街が元気になってくれたら嬉しいですし、住んでる人が楽しくなれば訪れる人も楽しくなるんじゃないかなって。定期的にフェスをやり続けて行って、2日開催とか大きくしていけたらなって思っています。それが僕の目標ですね。

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よしむらひらく / CELEBRATION

2017年リリースの、よしむらひらくにとって2枚目となるフル・アルバム。レコーディング&ミックスはよしむら本人が、マスタリングは吉田ヨウヘイ(吉田ヨウヘイgroup)が担当。

LIVE SCHEDULE

2017年4月2日(日)@道の駅 常陸大宮かわプラザ
2017年4月7日(金)@アコースティックライブ in ジイマ(茨城県鉾田市)
2017年4月8日(土)@宇都宮・カフェ まつぼっくり
2017年4月9日(日)@ホロルの湯 桜祭り(茨城県東茨城郡城里町)
2017年4月15日(土)@宇都宮・ベルモール・カリヨンプラザ(観覧無料インストアライブ)
2017年4月16日(日)@TOWER RECORDS静岡店(観覧無料インストアライブ)
2017年4月22日(土)@神戸・CASHBOX
2017年4月28日(金)@水戸・ライトハウス

『Love yourself 〜花々しく〜』発売記念ツアー
2017年6月4日(日)@水戸・ライトハウス
フルバンド・ワンマンライブ
2017年7月9日(日)@水戸・常陽藝文センター
初のアコースティックでのホール・ワンマンライブ『僕』

PROFILE

磯山純

「Love yourself」をテーマに歌い続けるシンガーソングライター磯山純
惜しむことのない地元水戸・茨城への愛を携え、水戸でワンマンライヴを行えば1500人規模をソールドアウト、昨年主催した野外フェスでは延べ2万人を動員した。そして2017年3月、ファンが待ち焦がれた彼の1stフル・アルバムが、一青窈の「もらい泣き」や「ハナミズキ」でその名を轟かすマシコタツロウ氏の全面プロデュースを受け、遂にリリースされた。
冠番組『磯山純のLove yourself.』は現在もIBS茨城放送で絶賛放送中、『みとの魅力宣伝部長』という肩書も持つ。

アーティスト公式HPはこちら

[インタヴュー] 磯山純

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