2017/09/26 17:40

入江陽が誘う、不思議な別世界へ──約1年半ぶりとなるアルバム『FISH』を自主レーベルからリリース

入江陽が約1年半ぶりとなるアルバム『FISH』を自身主宰のレーベル/出版社〈MARUTENN BOOKS〉からリリース! 生生まれ育った新大久保の喧騒を離れ千葉の郊外に移住。そんな彼がサウンドエンジニアの中村公輔のサポートのもと制作した今作は、リラックスしたムードで、魚を釣り上げるような、魚として泳ぐような、そんな雰囲気を纏った1枚となった。 ゲストにBOMI、岩出拓十郎(本日休演)、黄倉未来、ガクヅケ木田(芸人)、セミ(虫)といったバラエティ豊かな面々も迎え、トラックメーカーとしてTeppei Kakudaらも参加。彼らしいネオ・ソウル感も健在ながら、今までで最もファンタジックかつメロウな要素が詰まった『FISH』をレヴューと共にお楽しみください。

自身主宰のレーベル/出版社〈MARUTENN BOOKS〉からリリース

入江陽 / FISH
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC

【配信価格】
単曲 250円(税込) / アルバム 1,998円(税込)

【収録曲】
01. Baby
02. アイスクリーム
03. クラゲ
04. 教えて
05. 何がしたい feat. 黄倉未来&木田ガクヅケ
06. 鉄のハート
07. 心のミカン
08. 7月
09. 1997 feat. BOMI
10. いちにんまえ

REVIEW : 不思議な別世界へ

入江陽 / 教えて
入江陽 / 教えて

気付いたら、別世界にいた。

そう、入江陽の今作はファンタジックで、淡くて、私たちを不思議な世界へと誘ってくれる。人間が魚になってしまうような歌詞、チェンバロや蝉の声によってつくられるサウンド。それらで作られた不思議な別世界を、アーバンな雰囲気、メロウな質感に煌めかせるリズムと独特の歌声。聴く者すべてがこの“入江陽の世界”へとふらりと誘われてしまう、そんなアルバムが誕生した。

M2「アイスクリーム」、M3「クラゲ」はまさにそんな“『FISH』らしい”ゆったりとした不思議なサウンドが印象的。「アイスクリーム」ではアコースティック・ギターや淡いストリングスの音色が、薄暗い部屋でアイスクリームを口にしもう1度眠りにつく男女の大人の甘さを想像させており、「クラゲ」ではチェンバロの音色が光にゆらめく波の模様を、低音で響くピアノの音色が海底の青さを想起させる。どちらも、入江陽らしいシュールな世界観は残しつつ、薄暗さや海の青色といったメロウで落ち着いた印象を纏っている。

そしてそれらを少しだけ覆すのがM5「何がしたい」。〈もしもし入江くん?こんばんは〉というリアルな声や、怪しげなサウンドに、これから何が始まるんだ?と心がざわめいてしまう。聴く者を入江陽ワールドの虜へとさせてしまう、まさに中毒性のある2分35秒である。

M9「1997 feat. BOMI」もがらりと印象が変わるものの、90年代を思わせるそのキュートなサウンドと歌詞で、タイムトラベルしているような不思議な感覚に陥ってしまう程。20年前の1997年に出会った君をふと思い出して、迎えに行きたくなってしまう。そんな物語のその後、2人は再び会えたのだろうか、はたまた今も傍にいるのか。そんな想像をしてしまう程にアルバム1可愛らしくまっすぐな1曲である。

そしてM10「いちにんまえ」はまさに『FISH』というタイトルにも繋がってくるクロージング・タイトル。現代のこの世の中を〈いちにんまえの魚〉として悠々と泳いでいるけれど、〈プールの授業〉がある世界で泳いでいたあの頃の自分はまだ未熟で、世界を知らず、世間を悠々と泳ぐことなんてできなかった。できなかったはずなのに、そんな過去の自分を記憶の中に閉じ込め、忘れようとしながら何食わぬ顔で今、現代を生きている…。

そんなメッセージすら感じさせる、不思議で、でもどこか感情移入させる歌詞。そしてセミの鳴き声や水の音といった夏の記憶を思い出させるような環境音。そこへ煌めくアーバンなサウンド。まさに、“入江陽の世界”へと誘う1曲となった。

独特の歌詞とサウンドから生まれた別世界、『FISH』。

そこで魅せた世界は、まさに魚の鱗が深い海にゆったりとゆらめくように、不思議で美しい世界だったのである。

(Text by 福田 愛)

過去作もチェック!

入江陽 / 水

入江陽初の1stアルバム。シュールな世界観、予測できない展開でイメージを繋ぎ合わせ、曲ごとの音風景を描き出す。『水』というタイトルの通り、変幻自在に姿を変えて、聴くものの心に染みわたる1枚となっている。


入江陽 / 仕事

大谷能生によって大胆に再構築&プロデュースされた1枚。Shiggy Jr.のボーカル池田智子、SIMI LABよりOMSBも客演で参加し、様々な概念を覆す破天荒で印象的な傑作となっている。

RECOMMEND

BOMI / A_B

ユニークなサウンドをキュートかつハスキーな歌声で表現するBOMIが自らの半生を見つめ直し、自伝的にまとめたコンセプト・アルバム。水曜日のカンパネラ「ナポレオン」の製作にも参加している小袋成彬率いるTokyo Recordingsをプロデューサーに迎え、それまでのBOMIとはまた違った表情を魅せた1枚。

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ガクヅケ木田 / ガクヅケ木田の真夏ディナーショー

芸人でありラッパーであるガクヅケ木田によるアルバム。モノマネをしながらフリースタイルをしたギャグ・ラップ・ナンバーから、意識的に攻撃的な歌詞を入れた楽曲など聴きごたえのある1枚。

LIVE SCHEDULE

2017年11月25日(日)@名古屋某所
詳細未定

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PROFILE

入江陽

1987年生まれ。東京都新宿区大久保出身。歌手、作詞家、作曲家、編曲家、プロデューサー、映画音楽家、文筆家。岡村靖幸、プリンス、井上陽水までをも飲み込み、ニュースタンダードを築くネオ・ソウル歌謡シンガーである。

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[レヴュー] 入江陽

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